ジャパンディスプレイが抱える『3つのリスク』
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本日、ジャパンディスプレイが上場しました。ジャパンディスプレイと言えば、タブレット向けなどの中小型液晶パネルで世界シェア1位、産業革新機構からの投資を受けた「日の丸」的な会社として認識されていますね。
IPOについて、午前10時時点の速報値では、初値769円で公開価格(900円)を下回ったようです。パネルビジネスに対する投資家の慎重な姿勢が見て取れます。
ジャパンディスプレイの今期業績見込みは、売上6,234億円、営業利益304億円、EBITDA930億円、当期純利益366億円です。競合かつ世界シェア2位のシャープと比較しても、そう悪い数字ではありません。そもそも、シャープは液晶パネル専業ではないので、比較対象としては同シェア3位のLGディスプレイや4位のイノラックスが適切なのかもしれませんが。
(参照)ジャパンディスプレイIPO 株価は適正水準。産業革新機構の象徴的なディールに。
さて、そのジャパンディスプレイに対して、投資家が慎重な姿勢を見せているのはなぜか?
同社の有価証券届出書から、その裏側をひも解いてみましょう。
Appleへの依存度が高い!
同社の当第3四半期のアプリケーション別販売実績は以下の通りです。
モバイル(百万円):377,022、車載・C&I・その他(百万円):105,720、合計(百万円)482,742
この内、31.8%にあたる153,444百万円をAppleへの販売に依存しています。
3割程度で依存と呼ぶのは大げさかもしれませんが、Appleは当然「モバイル」に当たりますので、同社のモバイル向けパネル販売に置いては約40.7%、つまりおよそ半分をAppleに依存していることになります。
サプライヤをドラスティックに変える傾向のあるAppleですから、これは非常にハイリスクな売り上げ構成と言えます。Appleから引かれたときに、エラいことになるわけです。
ターゲットがハイスペック気味?
同有価証券届出書の「事業等のリスク」の一つに「中小型ディスプレイへの注力」があります。
当社グループは、売上の大半を中小型ディスプレイの売上に依拠しており、特に高精細、広視野角、低消費電力、薄型軽量、狭額縁といった高性能・高付加価値の中小型ディスプレイの製造販売に注力しております。…特に、当社グループの売上高への貢献の高い高価格帯スマートフォンについては、近年先進国においては市場の成熟化の兆しが見え注、また、新興国においては低価格帯スマートフォンの拡大が続いており、当社グループの期待どおりに高価格帯スマートフォンの市場が拡大しないおそれがあります。また、当社グループは、タブレット端末市場においても、当社グループが強みを有する高性能・高付加価値の中小型ディスプレイへのニーズが高まるものと予測しておりますが、そのような需要が実際に拡大しない可能性もあり、その結果、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
今朝の日経新聞でも、中国勢が手掛ける中位機種のスマホ向けの高精細液晶パネルで1000億円を投じて新工場を設立するという報道がありました。
テレビ向けの液晶パネルと同じロジックですが、ハイスペックで市場をけん引→技術がサチる→価格勝負→パネル価格の下落→海外勢に勝てない という嫌な流れは頭に浮かんでしまいます。
(参照)ジャパンディスプレイ、1000億円投じ液晶新工場 :日本経済新聞
行かないで、産業革新機構!
こちらも「事業等のリスク」の一つ「筆頭株主である㈱産業革新機構の動向」です。
また、同社は、当社の更なる企業価値向上をサポートするスポンサーとして、長期的視点から株式を保有する意向を当社に対して示していますが、当社の株式上場後、同社が当社株式の一部を市場で売却した場合、売却の規模等によっては、当社株式の需給関係及び市場価格に影響を与える可能性があります。
同社議決権比率の86.7%を有する産業革新機構の動きは、株価形成ならびにジャパンディスプレイの資金調達に大きく影響します。今回のIPOによって、産業革新機構はこれまでに投じた2000億円をやや上回る2244億円を回収するとのこと。これにより出資比率は34%なります。
そうは言っても、産業革新機構がジャパンディスプレイの主要株主であることに間違いありません。政府系ファンドですので、いきなりわが手を離すことはないと思いますが、初値を見ると投資家はそう思っていないのかもしれませんね。
同有価証券届出書には、ジャパンディスプレイが抱えるその他リスクについて細かくワーディングされていますので、興味がある方は是非。
裸のCFO