裸のCFO - 10000時間でプロになる。

某メーカー系スタートアップでサプライチェーン・マネジメントを担当している著者が「10000時間の法則」を真に受けて、“事業を創れるCFO”になるまでの10000時間を記録するブログです。世界を目指す研究開発型のプロダクト系ベンチャーを興すのが夢。技術や市場動向から、経営戦略やマーケティング、ファイナンス、それからVCについても書きます。お問い合わせは、hadakano.cfo[at]gmail.comまで。

1ヶ月が経ったサントリーによるビーム社買収 – 世論のまとめ

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サントリーによる巨額の買収額で話題となったビーム社買収から約1ヶ月が経ちました。最近ではすっかりソニーVAIO売却が話題の中心であり、サントリー「角」のCM女主人が菅野美穂から井川遥に変わったことなんて、僕くらいしか気付かないような空気です(井川遥キレイ…)。

ちょうど私も一ヶ月前に、サントリーの買収に対してブログを書きました。

ド素人がサントリーのビーム社買収を考えた。 - 裸のCFO - 10000時間でプロになる。

今回は、私見に対して世論がどういう主張をしているのか、まとめてみます。

私がブログで書いたサントリーのビーム社買収の目的は3つです。

  • ウイスキー市場のシャア拡大
  • ウイスキー製品ラインナップの補完
  • 他の製品以上にシナジーが見込める

この3つを基準にして、世論をまとめてみます。

 

シェア拡大の視点

日本の人口動態、国内のビール市場縮小、海外市場への展開などの視点が主です。

一部、蒸留酒市場そのものを成長市場と捉えているものもあります。

英国調査会社IWSRの調査によると、12年の世界の蒸留酒の市場規模は約1711億ドル(約17兆9655億円)で、2年連続6%成長。日本市場は約71億ドル(約7455億円)で3%成長。一方、国内のビール市場はここ数年縮小が続いている。現在、蒸留酒で世界10位のサントリーHDだけが、国内酒類会社で蒸留酒世界市場に挑戦できる基盤を持つ。

成長を求めて巨額M&A サントリー“最後の賭け”|Close-Up Enterprise|ダイヤモンド・オンライン

 わが国の人口動態を見ると、既存の製品に関して需要が伸びる余地は限られている。人口が減少していることに加えて、わが国の家計には多くの家電製品や家具などが溢れている。今ある製品を国内消費者に、これ以上のペースで打っていくことは至難の業だ。

日本企業の今後占う?サントリーの大型M&Aが金融市場に与える影響とは | 真壁昭夫「通貨とファイナンスで読む世界経済」 | 現代ビジネス [講談社]

さらに新たな国に入るには、「山崎」などの自社ブランドよりは、「ジム・ビーム」など世界的に知られたブランドを突破口にする方が入りやすい、とみる。

サントリー、飛躍のカギ握るビーム社買収 | ロイター | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

 

製品ラインナップ補完の視点

そもそも「蒸留酒」というカテゴライズがおかしいのではないか?バーボンとスコッチは全く違うお酒でしょ、という意見です。

日本のメディアはあえて「蒸留酒」というカテゴリーで今回の買収を報じているが、それは読者をミスリードする。そのような市場実態と関係のない蒸留酒カテゴリーで世界3位になるといったところで、まったく意味がない。 

 サントリーの米ビーム社買収、そのメリットが見当たらない | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト

利益率向上の視点もあります。

グローバル化のみならず、佐治社長は利益率の向上をかねて重視してきた。この点でいえば、サントリー営業利益率約6%に対し、ビーム社は20%台と高い。

「ビーム社とサントリーのラインナップは、種類価格帯などで補完的」(サントリー広報)という。 

サントリーが巨額買収、世界市場攻略の成否 | 週刊東洋経済 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

 

シナジーの視点

ビーム社の販売ルート活用が主な意見です。

すでにサントリーHDは13年から国内でジムビームの販売代理権を持ち、ビーム社もシンガポールなどの東南アジアサントリー商品を販売している。統合により、現在海外での売り上げが少ないサントリー酒類の製品も、ビーム社ルートでの販売が期待できる。

 成長を求めて巨額M&A サントリー“最後の賭け”|Close-Up Enterprise|ダイヤモンド・オンライン

さらに、今回の買収にはいくつかの狙いがあると考えられます。一つは、サントリーが誇る高品質な商品を海外の販路で拡大していく、ということです。同社には、「山崎」や「響」といった、コンクールで金賞を受賞するような商品を作ることができますから、これらの商品をもっと海外で売り出していこうとも考えているのです。

小宮一慶:サントリーの米ビーム社買収が意味するもの | BPnetビズカレッジ | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

ビームは高い成長が続く米国のほか、インドやロシアなどにも販売網がある。サントリーHDは1兆6500億円という巨額の買収資金を投下して、世界市場に進出する“時間”を買った。

サントリー、米社巨額買収は「高い買い物」か?世界展開加速へ「時間を買った」勝算と代償(1/2) | ビジネスジャーナル

 

投資家の視点

今回の買収に伴い、サントリーへ約1兆円の融資を行った三菱東京UFJ銀行 (MUFG)に関する意見もあります。

だがサントリーの買収案件は、MUFGにとって、融資だけでなく投資助言業務獲得という大きな収穫にも結びついた。

サントリーの米ビーム買収、MUFGにも大きな収穫(THE WALL STREET JOURNAL)

  •  その他

サントリーホールディングス<SUNTH.UL>による米ビーム社(イリノイ州)<BEAM.N>買収合意を受け、著名投資家ウィリアム・アックマン氏のフォーチュン・ブランズへの3年半にわたる投資は実を結びそうだ。

サントリーHDの米ビーム社買収、著名投資家アックマン氏に恩恵 - ロイターニュース - 経済:朝日新聞デジタル 

 

何でビーム社なの?な視点

大前研一氏は、今回の買収を酷評しています。

サントリーの米ビーム社買収は、何の意味もない買収だ。「カネ余り」だからといって、安易な買収に走るべきではない。

さらに今回は、買収額を本業で年間に稼ぐ力と比べたEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)倍率を見れば実に約20倍になっている。一般的にこの業界で買収をする時のEBITDA倍率は10倍程度が限界とされているから、サントリーは随分と割高な案件に手を出してしまったと言える。

サントリーの米ビーム社買収、そのメリットが見当たらない | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト

 

蒸留酒」と1つにカテゴライズすることに意味があるのか?という指摘は参考になりました。結局、今回の買収の是非は、シナジーを生み出せるかに依ります。

同じ「蒸留酒」でも、スコッチを売るのか、バーボンを売るのか。日本で売るのか、海外で売るのか。

“販売ルートの活用がシナジー”は一般論ですが、市場ありきなのでその活用は簡単ではないと感じます。

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